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挙式も無事に終わり、残すイベントは披露宴のみとなった。
ひなはベールを取ってもらい、つけ毛をして、あつしと一緒に披露宴会場へと向かった。
司会者による何やら怪しいプロフィールを読んでもらい、ケーキカット開始。
目の前には65,000円の生ケーキ。
でも、やっぱり生ケーキにしてよかったな。
何てったって、雰囲気が全然違うもの。
切った後はファーストフーディング。
お互いにケーキを一口づつ取って食べさせてやるという、見ている方が恥ずかしいイベントだ。
が。
ケーキが思ったよりも硬い。
むしろ、奥のほうがちょっと凍っているんじゃないのかと思わせるほどだ。
後で聞いた話によると、スポットライトの熱でケーキが溶けてしまうから、わざとひえひえにしているらしい。
親戚の叔父さんの乾杯の言葉とともに、披露宴は始まった。
披露宴開始と同時に料理を食いまくるひなとあつし。
だって、遅刻しちゃったから、朝から何も食べてなかったんだもん。
わき目もふらず、一心不乱に食いまくる。(後に友人に『あんなに食いまくる新郎新婦は初めて見た』と言われた)
が、ふと見ると、あつしの隣にバケツ。
次々と酒を注ぎに来る招待客の要望に応えて飲んでいたら、とても結婚式が終わるまでは正気が保てない。
それを回避するために酒をこっそり捨てるためのバケツだった。
しかし
。
「飲め」
「おめでとう!飲め!」
「まぁまぁ、一杯…」
続々と酒を注ぎに来る招待客。
しかも、飲み終わるまで待っている。
そして後ろには長い列が…。
あつしは、酒を捨てるヒマさえ与えられなかった。
ひなは酒が飲めないので、ウーロン茶の洗礼を浴びていた。
しかも、新婦側にはバケツがなかった。
お色直しで退場する頃には、あつしははにゃはにゃ、ひなはたぷたぷになっていた。
「ねー、戻ってきたらバケツをワシらの間に置かないか?」
「そだな〜、ひなも大変そうだったもんな〜」
会場係のお兄さんが、そんなワシらの呟きに苦笑していたのを見逃さなかった。
ひなのお色直しの間、会場では「新婦のお色直しの色当てクイズ」が行われていた。
その様子を、ワシらは美容室にあるモニターで見ていた。
ふふふふ…、悩むがイイ。
ひなは小林幸子ばりの赤いドレスに着替え、あつしは黒いタキシードに着替えた。
そして急いで写真室へ。
今度はお色直し後の衣装での撮影だった。
ひなとあつしはまたもアヤシイ格好で写真を撮り、半ば駆け足で披露宴会場へ向かった。
ドアの向こうで、司会のNさんの声がかすかに聞こえてくる。
「さぁ、新郎新婦さんの入場です!」
開け放たれるドア。
そして
「うををををををををッ!」
何とも言えないどよめきが会場を満たした。
思ったよりもみんなのテンションが高い。
大喜びする人や、本気で悔しがっている人の群れの間をすり抜けて、ひなとあつしは雛壇へ戻った。
当選者の発表とワインの授与が終わり、またワシらは食い始めた。
しかし、しばらくするとあつしがいない。
どこへ行った?
キョロキョロとあつしを捜す。
あつしはかなり酔っ払って、友人達と騒いでいた。
コノヤロウ!
あたしだって遊びたいよう!
ひなは雛壇を駆け下り、友人席へと遊びに行った。
新郎新婦を交え、みんなやりたい放題。
「それではここで、新郎新婦によるキャンドルサービスです」
司会のNさんの声に、ハッと我に返るひなとあつし。
そうだ。遊んでいる場合ではない。
ワシらは照明の落とされた会場内を、ロウソク(といっても、ガスバーナーみたいなやつ)を持ってウロウロと歩き始めた。
あつし父とあつし母が座っている席以外、さすがに予想通り、イタズラしていない席はなかった。
しかもひな父は、ワシらが近づく瞬間までロウソクの芯を水で濡らしまくっていた。
ある席には、花がスッポリとかぶせてあった。
ある席には、酒がぬられていて、なおかつ火を吹き消された。
自分達のロウソクも消えたが、かろうじてテーブルのロウソクの種火で復活。
そしてある席には、ジュースのビンが…。
みんな、やさしいね!(泣)
最後にメインキャンドルに点火。
幻想的な雰囲気に思わずワシらはウットリしてしまった。
が、キャンドルサービスが終わった次の瞬間。
ずどーん。
あつし、転倒。
足場が少し高かったのを忘れていたようだった。
「大丈夫?酔ったん?」
「イヤ…、大丈夫」
会場内大爆笑。
そして間髪入れずに両親への手紙の朗読に移る・・・ハズだった。
やっぱり、ワシらの結婚式はそう順調には進まなかった。
「あの〜…」
あつしが申し訳なさそうな声で呟く。
「どうしました?」
「トイレ、行きたくって…」
え!?マジっすか!?
思わず固まるひなと介添えのお姉さん。
介添えのお姉さんが、小声で言う。
「今、クライマックスなんですが…」
「分かってるんですが…」
どうやらかなり切羽詰っている。
「…分かった。とりあえず、行ってきな」
ここは司会の人に何とかしてもらうしかない。
あつしが裏から退場して、司会の人が、何とか引っ張っている。
何だかその様子が痛々しくて申し訳なくなってくる。
やっとあつしが戻ってきて、手紙の朗読。
そして、花束授与。
なんだかんだの結婚式が、今、やっと終わろうとしていた。
最後の締めの言葉は、あつしの叔父さんだった。
感動して泣きが入っているワシらを優しい目で見て、口を開いた。
「え〜・・・、トオル君!」
固まる招待客とワシら。
叔父さん、それはあつしの弟の名前です!
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