第15章 : 挙式当日−披露宴編



挙式も無事に終わり、残すイベントは披露宴のみとなった。
ひなはベールを取ってもらい、つけ毛をして、あつしと一緒に披露宴会場へと向かった。

司会者による何やら怪しいプロフィールを読んでもらい、ケーキカット開始。
目の前には65,000円の生ケーキ。
でも、やっぱり生ケーキにしてよかったな。
何てったって、雰囲気が全然違うもの。

切った後はファーストフーディング。
お互いにケーキを一口づつ取って食べさせてやるという、見ている方が恥ずかしいイベントだ。

が。
ケーキが思ったよりも硬い。

むしろ、奥のほうがちょっと凍っているんじゃないのかと思わせるほどだ。
後で聞いた話によると、スポットライトの熱でケーキが溶けてしまうから、わざとひえひえにしているらしい。

親戚の叔父さんの乾杯の言葉とともに、披露宴は始まった。
披露宴開始と同時に料理を食いまくるひなとあつし。
だって、遅刻しちゃったから、朝から何も食べてなかったんだもん。
わき目もふらず、一心不乱に食いまくる。(後に友人に『あんなに食いまくる新郎新婦は初めて見た』と言われた)

が、ふと見ると、あつしの隣にバケツ。
次々と酒を注ぎに来る招待客の要望に応えて飲んでいたら、とても結婚式が終わるまでは正気が保てない。
それを回避するために酒をこっそり捨てるためのバケツだった。

しかし

「飲め」
「おめでとう!飲め!」
「まぁまぁ、一杯…」

続々と酒を注ぎに来る招待客。
しかも、飲み終わるまで待っている。
そして後ろには長い列が…。
あつしは、酒を捨てるヒマさえ与えられなかった。
ひなは酒が飲めないので、ウーロン茶の洗礼を浴びていた。
しかも、新婦側にはバケツがなかった


お色直しで退場する頃には、あつしははにゃはにゃ、ひなはたぷたぷになっていた。

「ねー、戻ってきたらバケツをワシらの間に置かないか?」
「そだな〜、ひなも大変そうだったもんな〜」

会場係のお兄さんが、そんなワシらの呟きに苦笑していたのを見逃さなかった。

ひなのお色直しの間、会場では「新婦のお色直しの色当てクイズ」が行われていた。
その様子を、ワシらは美容室にあるモニターで見ていた。
ふふふふ…、悩むがイイ。

ひなは小林幸子ばりの赤いドレスに着替え、あつしは黒いタキシードに着替えた。
そして急いで写真室へ。
今度はお色直し後の衣装での撮影だった。
ひなとあつしはまたもアヤシイ格好で写真を撮り、半ば駆け足で披露宴会場へ向かった。


ドアの向こうで、司会のNさんの声がかすかに聞こえてくる。

「さぁ、新郎新婦さんの入場です!」

開け放たれるドア。
そして

「うををををををををッ!」

何とも言えないどよめきが会場を満たした。
思ったよりもみんなのテンションが高い。
大喜びする人や、本気で悔しがっている人の群れの間をすり抜けて、ひなとあつしは雛壇へ戻った。
当選者の発表とワインの授与が終わり、またワシらは食い始めた。

しかし、しばらくするとあつしがいない。
どこへ行った?
キョロキョロとあつしを捜す。
あつしはかなり酔っ払って、友人達と騒いでいた。

コノヤロウ!
あたしだって遊びたいよう!


ひなは雛壇を駆け下り、友人席へと遊びに行った。
新郎新婦を交え、みんなやりたい放題。

「それではここで、新郎新婦によるキャンドルサービスです」

司会のNさんの声に、ハッと我に返るひなとあつし。
そうだ。遊んでいる場合ではない。

ワシらは照明の落とされた会場内を、ロウソク(といっても、ガスバーナーみたいなやつ)を持ってウロウロと歩き始めた。
あつし父とあつし母が座っている席以外、さすがに予想通り、イタズラしていない席はなかった。
しかもひな父は、ワシらが近づく瞬間までロウソクの芯を水で濡らしまくっていた。
ある席には、花がスッポリとかぶせてあった。
ある席には、酒がぬられていて、なおかつ火を吹き消された。
自分達のロウソクも消えたが、かろうじてテーブルのロウソクの種火で復活。
そしてある席には、ジュースのビンが…。

みんな、やさしいね!(泣)

最後にメインキャンドルに点火。
幻想的な雰囲気に思わずワシらはウットリしてしまった。
が、キャンドルサービスが終わった次の瞬間。

ずどーん。
あつし、転倒。

足場が少し高かったのを忘れていたようだった。

「大丈夫?酔ったん?」
「イヤ…、大丈夫」

会場内大爆笑。

そして間髪入れずに両親への手紙の朗読に移る・・・ハズだった。
やっぱり、ワシらの結婚式はそう順調には進まなかった。

「あの〜…」

あつしが申し訳なさそうな声で呟く。

「どうしました?」
「トイレ、行きたくって…」

え!?マジっすか!?
思わず固まるひなと介添えのお姉さん。
介添えのお姉さんが、小声で言う。

「今、クライマックスなんですが…」
「分かってるんですが…」

どうやらかなり切羽詰っている。
「…分かった。とりあえず、行ってきな」

ここは司会の人に何とかしてもらうしかない。
あつしが裏から退場して、司会の人が、何とか引っ張っている。
何だかその様子が痛々しくて申し訳なくなってくる。

やっとあつしが戻ってきて、手紙の朗読。
そして、花束授与。
なんだかんだの結婚式が、今、やっと終わろうとしていた。

最後の締めの言葉は、あつしの叔父さんだった。
感動して泣きが入っているワシらを優しい目で見て、口を開いた。

「え〜・・・、トオル君!

固まる招待客とワシら。
叔父さん、それはあつしの弟の名前です!



付き合い始めて2年8ケ月。
親に結婚の承諾をもらってから100日。
そんなこんなで結婚式は無事に終了。


そして、「結婚への道」も、これにて完結です。

長い間お付き合いしてくださって、ありがとうございました。






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