序章 : 妊娠発覚



あの怒涛の結婚式から、早3年が過ぎていた。
ひなもダンナも、のんびりとした生活を送っていた。

そんな頃、ひなの心にふと引っかかるものがあった。

別にキッチリと避妊していたわけでもないが、子供ができなかったからだ。
そして、何かの雑誌に
『通常の性生活を送って3年間妊娠しなかった場合は不妊症といえる』
などという記事を見つけてしまい、内心、ひなの胸中は穏やかではなかった。

「ねぇ、もしかしてあたし、不妊症なんじゃないかと思うんだけど・・・」

言いながら、ダンナに雑誌を見せる。
ダンナは、( ´_ゝ`)というような顔をして雑誌を見た後、こう言った。

「別に、いいんじゃない?」
「はい?」
「できる時にはできると思うしさ。そんな思いつめなくていいと思う」
「そう・・・かな」
「だって、俺が原因で子ができないって可能性だってあるんだし」
「うーん・・・。でもなぁ・・・・・・」
「どっちにしたって、俺は子供がいない生活ってのもアリだと思うよ」

思いのほかアッサリした返答に軽く戸惑うひな。
でも、確かにそうだ。
こればっかりは自分達の力ではどうにもならん現象だ。
それに、ぶっちゃけた話、それほど子供が好きではないから
周りの期待だとか、夫婦の常識だとかで妊娠しなきゃ!って頑張るのも嫌だ。
そう思い直して、ひなは妊娠に関する考えをスッパリと捨てた。
子供がいなくたって、夫婦で仲良く添い遂げられればいいじゃないと思った。


それから半年。
ひなとダンナは、別に子供の有無にこだわる事なく、以前と同じくのんびりとした毎日を送り続けた。

そして2005年・夏。

ひなは夏の暑さに負けていた。
もう、何をする気もおきない。
暑くてムシムシして気持ち悪いし、食欲はあまりわかないしで、ゼリーや冷やし中華を食べながら生きていた。

「ひな、大丈夫・・・?」
「ダメポ」

いつもだったら
「あー大丈夫。そのうち何とかなるよー」
とか言ったりしてダンナの不安をやわらげようとするのだが、
その時は、心配してくれるダンナを気遣う気力すら失っていた。
ダンナは心配そうな表情のままひなを見つめて、言った。

「あの・・・さ。子ができたんじゃない?」
「エー?まさかぁ・・・」

やんわりと否定しながらも生理が遅れている自覚はあったので、どのくらい遅れているかを正確に計算してみた。

「2週間、遅れてるわ・・・」
「やっぱり、子、いるんじゃない?」

二人して大慌てで薬局に駆け込み、妊娠検査薬を買ってきた。
そして帰宅後に検査スティックを握り締めてトイレに向かう。
スティックには

    [ 判定》○ ○《終了 ]

と、わかりやすい窓がついている。
ここの判定の部分の○窓にチェックが入れば妊娠確定だ。

ひなは尿をかけた検査スティックを、説明書どおりに平らな場所に置き、待った。

    [ 判定》● ●《終了 ]

「うぇあっ?!」
瞬間、奇妙な声をあげているひながいた。
便座に座っているにもかかわらず、心臓が妙な速さで脈打っていた。
『これって、どっちだ?いるのか?いないのか?』
数分前に読んだはずの取説の内容すら思い出せない。

「・・・大丈夫?ひな?」

ドアの外からダンナが心配そうに声をかけてきた。
ひなは身支度を整え、検査スティックをつまんでトイレから這い出した。
そして取説を見てみると・・・、手にしているソレは明らかに陽性と語っていた。

「・・・いるかも」

半ばひきつり顔のまま、ダンナに検査スティックと取説を見せた。
ダンナはニヤニヤした顔をして、こう言った。

「明日、病院行ってちゃんと診てもらおう」
「うん・・・」

言いながらも、ひなは一抹の不安を抱えていた。
取説に『糖尿病の場合は、陽性の結果が出てしまう場合があります』と書いてあったからだ。

「妊娠じゃなくって、糖尿だったりしてー」
「なおさら病院行ってちゃんと診てもらえ!」

ダンナがめちゃめちゃ怒った。
怒られながらも、何もかもが現実味をおびない気持ちのまま、ひなはスティックを握って座り込んでいた。






妊娠検査薬によってもたらされた驚愕の事実。
ニヤニヤするダンナ、不安を抱えまくるひな。
果たして二人は、無事に出産までこぎ着けられるのか?!
次回「出産への道」は「妊婦の葛藤とヒトガタ生命体」をお送りします。

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