第4章:初めて見る我が子の顔


「調子はどうですか?」
「めちゃくちゃ調子いいです」( ・∀・)b
マタニティブルーを無事にのりきったひなは、担当医にキッパリと言い切った。
「おぉ〜、そりゃよかった」
担当医は嬉しそうに言葉を返して、ひなの腹に超音波の機械をあてた。
ひな、ダンナ、担当医の視線が、モニターに集中した。
「これ、赤ちゃんの足ねー」
とか説明を交えながら、担当医がモニターに映し出される腹の子の解説を始めていた。
腹の子はだいぶ成長していて、足や手の形はおろか、指までがハッキリと目視できるまでになっていた。
「すごーい。指までバッチリ見えますねぇ」
思わずひなは言葉をもらした。
ダンナも(  ゚Д゚)とした顔でモニターに映し出される腹の子に目が釘付けだった。
パクパクと小さいながらも鼓動を刻む心臓、ゆるいカーブを描いている背骨、わきわきと動く手足。
本当に人間一人がひなの腹の中で生きている。
アンタ、本当に生きてるんだねぇとか思っていると、そんな気持ちが伝わったのか、
腹の子は照れくさそうに両手で顔をなでくりまわした。
「ヤベェ、ちょっと可愛いかも・・・」
「もう、だいぶ一人前だねぇ」
その場にいた皆の気持ちがホッコリと和んだ。
「そういえば、この子、女の子ですかね?」
「え?!前にそう言いましたっけ?」
ひなの唐突な発言に担当医がちょっとうろたえた。
「いやー、妊娠が判った頃から女の子かなー?って予感があったんですよ」
「そうなの?」
「そうなんですよ。あと、夢に出てきた我が子がことごとく女の子だったから・・・」
「あぁー、そうなんだー・・・」
言いながら、担当医は我が子の尻部分に機械をあてて探り始めた。


ひなはこれまで3回ほど我が子を夢で見ていた。
一番最初の夢は、妊娠が発覚するちょっと前。
やたらに美形で凛々しい女の赤ちゃんをひなが抱っこしていた。
こいつ、やたら綺麗だなぁ。誰に似たんだろうなぁ。
なんてボンヤリ思っていると、赤ちゃんはスイッと向こう側を指差し
「お父さんは、あっち」
とハッキリ言って、向こう側にいるダンナを指差した。

次に見た夢は、ひなは子を産んで1週間ぐらい過ぎた夢だった。
ひなは実家にいる我が子に会いに帰ってきていた。
夢設定では、ひなは産んだ我が子に一度も会わないままに現在に至っていた。
「ねぇ、ダンナ。赤ちゃん、大丈夫?」
「うん。すごい元気。でもね、すんごい大きかったぞ」
「え?どのくらい大きいの?」
「うーん・・・、3歳児ぐらい」
そりゃーデカイな。
他人事みたいに思いながら赤ちゃんを見ると、ちゃんと新生児っぽい赤ちゃんが寝ていた。
「つーか、男?女?」
「女の子だったよ」
「そっか。女の子か」
納得したひなはお昼ご飯を食べようと台所に向かうと、赤ちゃんが急に泣き出した。
あー、母親が傍から離れるのがもう理解できるのか。すげぇなぁ。
とひなは感心していた。

その次に見た夢は、我が子を連れて自分達のアパートに帰ってきていた。
我が子は結構大きくなっていて、居間のコタツにつかまり立ちをして、
フリフリのスカートからオムツが見えるのも気にせずに、テーブルの上の苺を貪り食っていた。
「アンタ、今、何歳になったんだっけ?」
ひなが我が子に声をかけると、我が子は両手に苺を掴んだまま
「ん〜、そうねぇ。6ヶ月ぐらいかな」
そう答えてまた苺を貪り始めた。
6ヶ月にしちゃぁずいぶん成長してねぇか?とか思いつつも、ひなは我が子を見守っていた。


ずいぶんとアホくさい夢だったが、全ての夢の中で、我が子は女の子だった。
妊婦のカンは意外に当たるとか言われていたし、腹が丸いだの、ひなの顔つきが柔らかいだの言われていたので、
やっぱり腹の子は女の子じゃないかなーと思っていたのだ。
担当医は我が子のデリケートな部分を見ながら、何だか難しい顔をしていた。
「うーん・・・、付いてるように見えないから、女の子・・・かなぁ?」
「小さすぎて付いてるように見えないって事もありますか?」
「それもあるけど、うーん・・・、暫定女児って事で」
娘決定。
やっぱり妊婦のカンってあなどれないなーと思っていた。
しかし暫定女児ならば、もしかしたら息子が産まれるかもしれないとか思ったりしたが、
それはそれでまぁいいかと思った。
性別判定に一区切りついたところで、担当医は今度は我が子の頭の直径やら足の長さだのを測り始めた。
と、思いもよらぬ映像が飛び込んできた。
「うわ、顔だ!」
「ずいぶんハッキリしてきたねぇ」
担当医が満足げに言ったが・・・

  

怖っ!     ↑こんなカンジ

おいおい。
これじゃまるで、連行される宇宙人じゃんよ。
「キシャー!」
とかって威嚇してるみたいな我が子の顔に、ひなは怯えてしまった。
この状態で出てくるわけではないと分かってはいても、
この状態で腹の中にいるかと思うと、やはりビビってしまう。
『日本人女性、宇宙人を産み落とす』
などというゴシップ新聞の見出しがひなの脳内をグルグルと回っていた。
もうちょっと可愛い顔が見られるかと思っていたひなが甘かったのだろうか。
ダンナはどう思っているんだろうとその表情を伺ってみると、ダンナも何ともいえない表情をしている。
そうだよな。
いくら超音波写真だといっても、こりゃー、あんまりだよな・・・。
担当医は
「うん、順調だね。全然問題ないよー」
とニコニコしながら我が子の顔をプリントアウトして手渡してくれた。
成長の具合は順調で問題ないかもしれないが、違う意味で問題がありそうな気がしてならなかった。
手渡された写真を受け取り、とんでもないブツを入手してしまったというショックを隠しきれなかった。
つーか、コレ、魔よけ・・・?

後日、いろんな人にこの写真を見せてみた。
「怖っ!」
「何これ!」
「うわっ!宇宙人キタコレ!」
感想はどれも似たり寄ったりだった。
実家の母でさえ
「うわー、すごい顔だねぇ・・・」
と言ったきり絶句してしまった。
この宇宙人、あんたの孫だよと言うと、苦笑しながら写真を返してきた。
宇宙人の孫を持った実家母の気持ちは計り知れない。
だが、宇宙人を産むひなの気持ちに比べればまだ気が楽であろう。

しかし、この写真を見て、上のどれにも当てはまらない感想を述べた猛者がいた。
一人は、ダンナの母。
「これ、小さい頃のこの子に似てるわぁ」
小さい頃のダンナに似てる?! Σ(゚д゚lll)
すごい衝撃だった。
つー事は、腹の子、ダンナの遺伝子継ぎまくり?
それはそれでいいなと思った。
たとえ顔が宇宙人でも、産めない側にしてみれば、顔が似てるというだけでダンナも嬉しいだろう。
「俺の子!」っていう実感が湧きやすいだろうし。

そしてもう一人の猛者は従姉妹のカオリン。
「うっわー!可愛いー!この写真チョウダイ!」
写真を見るなりそう叫んだかと思うと、ひなの手から写真をひったくった。
「あんた、どんな審美眼持ってんのよ」
「やーんっ!可愛い可愛い可愛い可愛い!かーわーいーいーーッ!キャー!」
聞いちゃいねぇ。
確かに子供が大好きだという事は知っていたが、これほどまでとは思っていなかった。
カオリンのストライクゾーンの広さに感心するばかりだ。
とりあえず写真は奪われたくなかったので携帯のカメラで写真を撮り、メール添付して送りつけてやった。
カオリンは、その写真を待ち受け画面に設定した。
おそるべし・・・。


初めて見る我が子の顔は、衝撃的だった。
でも、きっとこれからもっと肉付きもよくなって可愛い顔になるに違いないと自分に言い聞かせて
次回の検診を楽しみに待つ事にした。


腹の中の我が子に威嚇されたひなとダンナ。
いつかは可愛い表情をみせてくれると希望を抱きながらアルバムに写真を保存した。
そして妊娠も中期に入り、様々なイベントが始まりを告げた。
次回「出産への道」は「母親学級と妊娠した夫」をお送りします。

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