第5章:母親学級と妊娠した夫



妊娠も中期に入り、安定期といわれる時期になった。
母子手帳をもらった時に予約した母親学級が始まる頃だった。
毎週月曜日、全4回、近所の保健センターで開催された。
ちょっぴり面倒くさいなーという思いも抱きつつも、ひなは母親学級に向かった。

受付で母子手帳を渡し、講義室らしき部屋でビデオを見たり、保健婦さんの話を聞いたりという感じだった。
正直、あんまり期待はしていなかったが、なかなか思ったよりは有意義でおもしろい時間を過ごした。
生まれたばかりの赤ちゃんが、父親の声を聞いて「おぉ?アンタがパパ?」って顔をしたり、
母親の顔を見てフニャフニャとやさしい笑顔を作ったりする映像を見て、心なしか出産が待ち遠しくなったりした。
肌着の生地の違いの説明を受けたり、出産前に揃えておく物品や育児用品のサンプルなども手にとって見られたりと、
新米ママにとってはかなりいい機会を与えてもらえたような内容だった。
中でも、一番興味をそそられたのが、妊娠中の食生活についての講義だった。
実際に低カロリーながらも必要栄養素が簡単に摂れる料理を教えてもらったりした。
しかも、試食つき。
そこで試食&教えてもらったアサリとブロッコリーのミルク煮がツボに入り、早速、晩御飯に作ってみた。
「おぉー、これ、美味いじゃん!」
「でしょー!今日ね、習ってきたんだー。これだけで鉄分とカルシウムがねー・・・」
「ウマウマ」
ダンナにはこのミルク煮からどれだけの栄養素が摂れるかなどどうでもよさそうだったが、
美味しく食している様子を見る限り、習ってきてよかったなーとしみじみと思っていた。

そして、母親学級の中でも一大イベント(?)ともいえる父親学級の回が催された。
さすがに平日だけあって仕事の都合で出席できない父親が半数以上いたが、
ダンナはあらかじめ休みを取っていてくれたので一緒に保険センターへ出かけていった。
最初のビデオ教材の視聴では「お腹の中でも外の音が聞こえている」という内容にダンナは釘付けになっていた。
その後、父親のみが別室に連れて行かれ、何やら講義を受けているようだった。
後から話を聞いてみると、妊婦体験ジャケットとやらを着込み、靴下を履いたり階段を歩いたりしたそうだ。
その時に妊婦ジャケットを着込んだままぶら下がり健康機みたいなものにぶら下がって懸垂をした父親がいたとか言っていたが、
妊婦はデフォルトで懸垂などしない。
懸垂している暇があったら日常生活における妊婦の不便さを体験してこいと。
母親は別の講義を受けていたので自分達のダンナが妊婦姿になったのを目視できなかったが、
後に配られた各々のダンナの妊婦写真に、全員が沸きまくった。



ダンナ 妊娠後期の姿

心なしか自慢げな表情が笑いをさそった。
妊婦体験が終わった後でみんな合流し、今度は赤ちゃんの沐浴指導を受けた。
ダンナが出席している夫婦は、みなダンナが赤ちゃん人形を洗う係になった。
この赤ちゃん人形がかなーり重い。
生まれてちょっとぐらいの重さ(約4キロ)があり、首がすわっていない。
ダンナは、ぐにゃぐにゃした赤ちゃん人形をビビリながらも保健婦さんの指示通りに手際よく洗うマネゴトをした。
はたから見ていて、結構上手に洗えてるなぁと感心していた。
こんな感じだったら、ダンナにお風呂を任せても安心かなと、ひなは思っていた。
「それじゃぁ、そろそろお風呂からあげてくださいねー」
保健婦さんが声をかけ、ダンナが赤ちゃん人形をベビーバスからあげようとしたが・・・
「あぁっ!それじゃ赤ちゃんが・・・!」
保健婦さんが思わず叫んだ。
ダンナは、赤ちゃん人形の胸倉を掴むような形で、片手でズボッとベビーバスから赤ちゃん人形を引っこ抜いていた。
まるで大根の収穫のようだった。
「ダンナー!」
「ぬぉ、ごめん!油断した!」
油断するなや。

そんな笑えるアクシデントも交えつつ、無事に母親学級は終了した。
だいたいの基本知識は取り入れられたなーと感慨にふけっていると、

ボコボコッ
「?!」

内側から、腹を蹴られた。
初めての胎動だった。
よくテレビなんかで「あ、動いた♪」みたいにやさしい笑顔をうかべる母親の図みたいなのがあるが、
あれはある意味幻想だと思い知らされた。
いや、普通にビビるから。
予告もなしに腹蹴られたら、誰だってビビるって。
実際に初めての胎動を味わった瞬間のひなの気持ちは
「蹴ったね?!オヤジにも蹴られたことないのに・・・!」
と、完全に嘘アムロだった。

それから胎動を感じる日々が始まったのだが、蹴られたり動かれたりするたびに
「ぅぬあぁっ!」
「むぉっ!」
「ぐふぁぁっ!」
などと奇声を上げてしまうのだった。


一通りの講義を受け、出産への知識を深めたひなとダンナ。
腹が大きくなり、身動きが取れなくなる前に
今度はベビー用品を仕入れに行かなければならない。
次回「出産への道」は「ベビー用品を求めて」をお送りします。

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