第1章 : 驚愕のブライダルフェアー



時は6月16日。
ひなとあつしは、ロックハート城へと向かっていた。

「ブライダルフェアーって、どんな感じなんだろうね」
「ん〜…、とりあえず、ドレスが飾ってあったり、料理が陳列されてたりしてるんじゃないのかなぁ」
「模擬挙式がないのが残念だよね」
「でも、タダでお昼ゴハンは食べられるんだし、いいじゃない?」

そんな事を言ってるうちに、車はロックハート城へ到着した。
普段なら入場するだけで1000円は取られるのだが、今回ワシらはお客様だ。

「ブライダルフェアーのお客様ですね?こちらからどうぞ」

てな感じで、顔パス状態で城内へと案内される。
あまりの小気味よさに、思わず『ふんふふ〜ん』と鼻歌が出ちゃうぐらいだ。

城内は、当然だが、たくさんのカップルであふれ返っていた。
ヨーロッパの城をそのままそっくり持ってきたというロックハート城が、小高い丘の上にそびえ立っている。
城へと続く道の脇には、輸入雑貨の店がひしめきあっている。
うーん、何だかヨーロッパに来た気分。

そして、ブライダルフェアー会場に通された瞬間、そんな気分は吹っ飛んでいった。

「本日はおめでとうございます」

相談役兼営業部長のOGU氏だ。
満面の笑みを浮かべ、気の早い挨拶をしてくれる。
『結婚式って、どんなカンジなんだろうね〜』
なんてボンヤリ考えてるだけのワシらにとっては、痛烈な現実パンチだ。
思わず固まるひなとあつしをよそに、OGU氏は、ガンガンと話をすすめていった。

「ご結婚の日取りはお決まりですか?」
「…いえ、まだです」
「とりあえず、今年中には…」
「そうですか!かしこまりました」

突然、快活な返事と90℃近辺の丁寧なおじぎをかますOGU氏。

「それでは、ただ今、式場の空き状況をお調べいたします」

待て待て待てぇ〜いッ!
ちょっと、早すぎやしませんか!?

ふと隣を見ると、あつしが愛想笑いを浮かべながら固まっていた。
…ダメだ。もう、助けは来ない。

「イ、イヤイヤイヤ…。空き状況と言われても…」

一気に挙動不審になるひな。

「イヤイヤイヤ!これで仮予約をしておけば、ご両親に結婚の報告がしやすくなるじゃないですか」
「…へ?」
「”結婚します”って報告するのって、タイミングがなかなか掴めないでしょう。
今回の仮予約がそのタイミングなんですよ」

おぉ!

思わず目からウロコが剥がれ落ちたかのような錯覚をおぼえた。
確かに屁理屈とも言えないが、なかなかにイイ提案だ。

 ワシらは、11月22日、12月8日、23日の3日間を仮予約した。

城内のレストランでお昼ゴハンを食べながら、ワシらは呟いた。

「結婚式って、こんなふうに強引に決めないと、具体的な話とかできないのかもしれないな」
「…そうかもね。特に、あたしらの場合は」
「そうだね…」

OGU氏に感謝の意を表明しながら、ワシらはお昼ゴハンをキレイにたいらげた。





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気が付いたら仮予約までしてしまったひなとあつし。
そのブライダルフェアーでもらってきたパンフレットを見た二人は、
恐ろしい現実と直面することになる!

次回「結婚への道」は「夢の代価」をお送りします。

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