第7章 : 我が家はどっちだ?


結婚式の段取りもある程度出来上がってきた頃、ひなとあつしはふと気付いた。
「一緒に住むのって、結婚式の前?それとも、後?」
「ん〜、結婚式が終わった後に『じゃ、また明日ね〜』って実家に帰るのも変だよね」
「かなり、変だ」

そんなワケで、ひなとあつしは家探しへの旅に出ることになった。
平日に休みが取れないひなは土日に、昼休みに街中をうろつき回れるあつしは昼休みに、
それぞれ物件を探しに不動産屋を巡り始めた。
2人の条件として、とりあえず

 町中の一戸建て
 家賃4万5000円ぐらいまで
 駐車スペース2台ぐらい
 水洗トイレ、シャワー付き
 最低でも6畳、6畳、4畳半の3部屋あること
 エアコンが付いていれば最高


  ・・・あるのか?

どんなにワガママと言われようとも、この条件は譲れない。
しかし予想通り、なかなかこのような物件は見つからない。
すでに新居を探し始めて2週間が過ぎようとしていた。
このままでは、結婚式終了後にお互いが実家に帰るハメになってしまう。
ひなは、町中の不動産屋をくまなくまわり始めた。
そして町の中心部にあったS不動産を訪れた。

そう。
ココがなかなかクセ者だった。
なぜか、看板があるのに普通の一軒家。
…おっかしいなぁ。
首を傾げつつ玄関へと向かうひな。
途中の居間らしき部屋に作業着を着たオジサンがくつろいでいる。
…ココじゃないのかなぁ。
ドキドキしながらオジサンに会釈。
と、オジサンは突然、満面の笑みを浮かべて言った。

「いらっしゃい!まぁ、ソコ開けて入って来てよ!」

マジで不動産屋だったんかい!
どうひいきめに見ても、ただの一軒家。
どうひいきめに見ても、ただのオジサン。
しかし、背に腹は変えられない。

居間に上がり込んだひなに、オジサンはお茶を出しながら、朗らかにこう言った。

「家かい?」
「あ、はい。家です」
「どんなのがイイんだい?」
「え〜・・・、(上に挙げた条件を全て告げてみる)」
 オジサンの表情がだんだん曇っていくのがわかる。

「…ちょっと待ってな」
オジサンは「貸家帳」と筆でデカデカと書かれている大学ノートを引っ張り出した。
電話帳といっしょくたになって積んであったそのノートには、
S不動産で扱っている全ての物件が書き込まれているようだった。
指に唾をつけながら必死の形相でページをめくるオジサン。
「そんな物件、あるわけね〜よ」なんて死んでも言えないのだろう。
不動産屋魂を垣間見た気がした。

「むッ!あったッ!!」
オジサンが指を止めて叫んだ。
「よっしゃ!コレなら条件にピッタリだ!すぐに案内するから表に出て!」
オジサン、大喜び。
慌ててオジサンの後を追うひな。
そしてひながオジサンの運転する車に乗り込むや否や発車。
慌てて車のドアを閉めるひな。
ウインカーを出す前にカーブを曲がるオジサンの運転に命の危機を覚えつつ、
ひなは案内された物件へと辿り着いた。

「どう?最高だよ!アンタの条件にピッタリさ!もうココに決めちゃいな!」
玄関を開ける前からオジサンが売り込んできた。
苦笑いしながらひなは物件を見てみた。

…すげえ!

 環状線沿いの一戸建て
 家賃5万円
 駐車スペース軽自動車4台
 水洗トイレ、シャワー付き
 ダイニングキッチン6畳ぐらい、6畳、6畳、6畳半の間取り
 エアコン付き


「もう、これ以上にイイ物件なんて見つからないよ?ココで決めちゃいな!」
オジサンのセールストークにまんまとのせられそうになるひな。
「とりあえず、ダンナにも見せて、また相談して返事しますね」

その夜、仕事が終わったあつしを案内して感想を聞いてみる。
「おお!すごいよ!」
あつし、一目惚れ。

そして、即決。

「これでやっと2人で暮らせるね」
「ね〜!」
電気の通っていない真っ暗な新居でワシらは幸せをかみしめていた。





新居も決まり、大喜びのひなとあつし。
だがしかし!親がらみの大きなイベントが2人を待ち構えていた!
次回「結婚への道」は「怒涛の食事会」をお送りします。

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