第10章 : マリッジブルーって何ですか?(前編)


新居の準備と、引越しに追われているひなとあつしのもとに、BELLA-VITAから一本の電話が入ってきた。
担当のSさんだった。

「お世話になります〜。準備の方はいかがですか?」

Sさんの明るい声が胸に突き刺さる。

「いや〜、ぼちぼちですねぇ」←大ウソ
「そうですか。それでですね、今度ブライダルフェアーがあるんですが、参加なされますか?」

???
また?
…イヤ、ちょっと待てよ。
そういえば、引き出物とか料理とかも決まっていない。
ブライダルフェアーに行けば、現物が展示されているはずだ。

「そこで引き出物とか決められるんですよね?」
「そうですね」
「行きます!」

あぁ、よかった。
これである程度は結婚式の準備も終わるはず。
ワシらの表情に安堵の色が浮かんだ次の瞬間、恐ろしい言葉を乗せた電波が耳に飛び込んできた。

「それとですね、お二人に準備していただきたいものがあるんですが…」
「え、何でしょう」
「以前にお渡しした”親族紹介書”と”送迎バス利用申込書”、それから”席次表”を持ってきて頂いてよろしいですか?」

ヤバイ!さっぱり用意できてないよ!

「…わかりました。ちょっと遅れると思いますが、持っていきますので」
おろおろしながらひなは受け答えた。
「あ、とりあえず”席次表”は仮印刷があるので、なるべく早めにお願いしますね。他のは1週間前で十分間に合いますから」

そうか。
席次表だけならなんとかなりそうだ。

「あ、あとですね〜」

まだあるか!

「今後、司会の方との打ち合わせもあると思うんですが、その時に持って来て頂く”披露宴進行表”というのをお渡ししますね」

え?書けって…?

「ところで、BGMの方はどうしますか?お二人で選曲されますか?」
「…そうですね、やっぱり、自分で使いたい曲とかもありますし」
「そうですよね〜。例えば、業者に頼んだりしますと、ミュージックプロデュース料として3万円かかっちゃうんですよ」
「マジっすか!?」
マジです。で、自分達で曲を選曲しても、編集とか、当日の音響セットとして結局は2万円かかっちゃうんですよね」

ん〜、1万円浮くのか。
…何となく『焼け石に水』ってカンジがしなくもないが、とりあえず、自分達でやってみよう。

「わかりました。じゃあ、とりあえず自分達で選曲だけはします」
「それでは、後ほど司会の方とミュージックプロデュースの方から連絡があると思いますので、よろしくお願いしますね」
「あ、はい。ありがとうございました」

頑張って下さいネ、とゆ〜Sさんの言葉を聞いて、ひなは電話を切った。

OK。
整理してみよう。

やることリスト
◎席次表の作成
◎親族紹介書作成
◎送迎バス利用申込書作成
◎披露宴進行表の作成
◎BGMの選曲

メチャメチャ忙しいやんけ!
いまだに引越しすら満足に終わっていない状況で、どうしろと?

もう、ボンヤリしている暇はない。
ワシらはCDをレンタルし、友人のマコからもCDを借り、連日午前3時ぐらいまで選曲とCD編集を始めた。
あつしが仕事に行っている昼間は、席次表、親族紹介書、送迎バス利用申込書、披露宴進行表の作成に取り掛かっていた。

横になる時間さえない。
そう。
この時すでに12月も1週間ぐらい過ぎていたのだ。
挙式まで、単純計算したって20日は切っている。
しかも、披露宴の準備、衣装の準備なんかはサッパリ終わっていない。
ついでに実家のブラックホールも放置プレイ状態だった。

だが、泣いても笑っても結婚式は確実に迫ってきている。

連日連夜に渡る忙しさに、
とうとう、ひな、過労で倒れる。
熱は38℃をマークしていた。
典型的な風邪の症状だった。

体調が絶不調の状態で、それでも準備を進めざるを得ない。
あつしも、だいぶお疲れモードだ。
このままでは、結婚式の準備以前に自分の葬式が先になりそうな勢いだ。

ソレデモ ジカンハ マッテ クレナカッタノデス

「あたし、この時期の花嫁って、もっとこう…、しんみりしたり、ドキドキしたり、そういうモンだって思ってたよ」
「…ゴメンな、俺が仕事やってる間、みんなひなに任せちゃって…」
「何か、このまま一生、準備が終わらないような気がしてきた…」
「…もう少しだから、頑張ろうな?」
「うん。頑張ろうね…」
ひなとあつしは、様々な書類とCDが散乱する居間で、お互いをなぐさめあっていた。





時間に追われてクタクタのひなとあつし。
だがしかし!結婚式の準備はこれだけで終わりではなかった!!
次回「結婚への道」は「マリッジブルーって何ですか?(後編)」をお送りします。

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