第12章 : 夢と現実の狭間で


そして、挙式まであと1週間となっていた。
ほとんどの段取りも終わり、残すは式場との最終打ち合わせのみとなった。
あつしが仕事で抜けられないので、ひなが単身でBELLA-VITAに乗り込んでいった。

「どうですか?準備は全部整いましたか?」

担当のSさんがにこやかに尋ねてきた。
…そりゃあ、もう。
もの凄い速さで整えましたとも!(泣笑)
ひなは曖昧な笑みを浮かべて、Sさんに書類を提出した。
Sさんは念入りに書類をチェックし、全部の書類が揃っているのを確認し、それをフォルダーに納めた。

「いよいよですね〜」
「ホント、大変でした〜」
「あ、招待客の方に配るプロフィールは作りました?」

…え?何ですかソレ?聞いてないデスヨ?

「…作った方がいいでしょうか」
「そうですね〜。前日にこちらに預けてもらえれば間に合いますし」

だんだん無口になるひな。
どうしよう。
式まであと1週間。
…てゆ〜か、前日までに上げるとしたら、今日を含めてあと6日

……。
………。
…………。

「やってみます」
「わかりました。頑張って下さいネ」

ニッコリと微笑むSさん。
あぁ、Sさん、あたしゃアンタの笑顔にイチコロだよ。
何だか、愛する彼女のために必死の思いでプレゼントを用意する彼氏の気持ちだ。
ひながぼんやりとそんな事を考えていると、Sさんは1枚の紙をひなの前に置いた。

「で、こちらが今回の挙式・披露宴の見積になります」
「あ〜、はいは…」

い、がひなの口の中にとどまっていた。
なおかつ、ひな、石化。
冷や汗まで出てきた。

「こ、これは…」

やっとの事で、ひなはうなるように声を出した。

「ちょっと多くなってしまいましたね〜…」

Sさんも、心なしか申し訳なさそうに言う。

お見積金額
¥2,700,000

「ぎゃああああああぁぁぁ!」

ひな、絶叫。

「ななななな、何でこんな金額にッ!?おかしいよ、おかしいよ、おかしいよ!」

傍から見ておもしろいくらいに動揺しながらプラン料金の記されている紙を捜しまくる。
そしてSさんと一緒にプラン料金と見積金額の差がどこにあったのかをチェックし始める。

…これか。
お色直し用の衣装代金、披露宴の料理のグレードアップ化、その他もろもろの経費が微妙にグレードアップしている。
1つ1つは微妙なグレードアップでも、×60にすれば金額は超グレードアップだ。
自分達で選んだとはいえ、まさかコレほどまでに金額に差が出るとは…。

「…大丈夫ですか?」
「いえ、ダメです」

Sさんが心配して声をかけてくれるが、もはやひなには取り繕う余裕すらない。
でも、今さら「やめます」なんて言えない。
心配そうな顔でSさんに見送られながら、ひなは新居へ戻った。


「………ッ!?」

あつしは、見積書を見て、言葉をなくしていた。
ひなは、コタツの脇で撃沈していた。

「……ど〜しよ〜。ウチらの親、何て言うだろう」
「………さぁ」

あつしの顔色が悪かった。
こんな気分を味わったのは、あの頃依頼だ。
そう、まだ通信簿というものを親に見せていたあの頃。
できるなら見せたくない。
でも見せなければいけない。
そして、説明もしなければいけない。
まさにあの頃の気持ちだった。
さすがに顔を合わせるのが怖かったので、ひなの親には電話で報告することにした。

「あ、あのさ…、すごい金額なんだよ」
「え〜?いくら?」

母ののんびりした声が受話器から聞こえてくる。

「……にひゃくななじゅうまんいぇん」
「あ、そんなモンで済んだんだ」
「驚かないんかい!」
「え〜、だって、相場は300万ぐらいするもの〜。かーさん、式場で働いてたから、金額はだいたい予想ついてたし」

OK。
それなら話は早い。
ひなの実家には問題はないようだ。
…問題は、あつしの実家だ。
ワシらは意を決してあつしの実家に乗り込み、見積書を提示した。

あつしの父と母の目が無言のまま丸くなっていく。

ああああ、ごめんなさい。
すまない気持ちが満載のまま金額の説明をする。
最初に口を開いたのは、あつし母だった。

「あつし、あんた、ミエッぱりだね〜」
「え?」
「プラスティック・ケーキで十分じゃん」

みんなから非難されまくりのあつし。
話題の矛先がケーキに向いてくれてよかったと思いつつ、ワシらはあつしの実家を後にした。

そして、新居に戻ると
プロフィール作りが待っていた。

「あとは、コレだけなんだね」
「コレさえ終われば、後は結婚式だからな」
「あつし、印刷は頼んだよ」
「まかせとけ!」





挙式を1週間後に控えたひなとあつし。
だがしかし!予想だにしない事態が二人を襲う!!
次回「結婚への道」は「結婚前夜」をお送りします。

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