第13章 : 結婚前夜



「父、ヒマ?」

ひなは実家に電話をかけていた。

「何だい」
「いや〜、これから衣装着て写真を撮るんだけどさ、父、カメラ持ってきてワシらを写してくれない?」

年賀状用の写真を撮っておこうというハラだった。

30分後、BELLA-VITAに集合。
初めて見る一人娘の花嫁姿に、父はちょっぴりウルウルしているようだった。
父よ、すまない。
今は父と一緒に感傷に浸っているヒマはない。
ワシらにはまだ、やるべき事があるのだ。

24枚撮りのフィルムをフルに使って写真を撮りまくる父。
必死でドレスの裾をひるがえしながら、なるべく可愛いポーズと表情を作るひな。
金太郎の前掛けのような偽シャツを着て胸を張るあつし。
異常な興奮状態で、前撮りは終了。
父にお礼を言って、ひなとあつしは逃げるように新居へ帰った。


ほんの数日前、ひなの親友てらが遊びに来る。

「いよいよだね〜」
「ね〜」
「何か、もう泣けてきちゃうよ」
「早すぎ〜!」

ちょっぴりウルウルしているてら。
何だかノホホンとしているひな。
二人でひとしきり楽しい話題に花を咲かせていたが、ひなのある一言でその情景は一変した。

「いや〜、まだプロフィール印刷が終わってないんだ。てゆ〜か、これから作るんだが」
「おバカ!」

てらが鬼のような形相で怒った。

「ついでに言うと、両親への手紙が微妙に書き終わってない」
「書けよッ!」

ものすごい怒りっぷりだった。
てらは本気で心配して怒っている。
何だか申し訳ない気持ちになりながら、ひなは両親への手紙を仕上げ、プロフィールをパソコンで作り始めた。

そして、式前日になってもさっぱり終わっていなかった。


時刻は午後8時すぎ。
あつしが、ワシらの写真を取り込んだフロッピーを持って帰宅。
晩ごはんを食べ終わってから、ひなは大急ぎでパソコンに取り込み、プロフィールを作る。
あつしはプロフィールを印刷する用紙と、ひなのストッキング、あつしのくつ下、景品のワインなどを買い出しに出る。
あつしが帰ってくるなりプリンターをセットし、印刷開始。

…?
位置がずれてる!

時間に追われながら調整印刷を繰り返すあつし。
消費される紙とインク。
インクがなくなるとまずいので、とりあえず近所の文真堂に駆け込んでインクを調達する。
急がなければ間に合わない。

なんてったって、今の時刻はすでに0時をまわっている。

そう、すでに挙式当日なのだ。
…間に合うのか?
しかも60部。


途中で忘年会で盛り上がっているメル友の皇龍さん(ヘメヘメ)がメールしてきた。
素直に今の状況を伝えると、かなり心配していた。
…いいなぁ、忘年会。
本当だったら、今頃は温泉に浸って、ふかふかのお布団で眠りについている時刻なのに。

「もう、寝た方がいいよ。化粧のノリが悪くなるよ?」

あつしが心配して声をかけてくれる。
しばらく頑張ってはみるものの、さすがに眠気には勝てない。
ひなはバブのお風呂(さくら)に浸り、後はあつしに任せて布団に入った。

そういえば、実家にも行けなかったな。
結局バタバタしていて、お嫁さん気分にもなれなかったし…。

こんなんで、お嫁さんになっちゃって、イイのかな。

…。


もしや、これがマリッジ・ブルー!?

ばんざーい!ばんざーい!

変な喜びに溢れながら、午前4時、ひなは眠りに就いた。
居間では、稼動中のプリンターの脇で、あつしが高イビキをかきながら眠っていた。






全ての準備が整い、挙式を翌日に控えたひなとあつし。
いよいよ物語はクライマックスに!!
次回「結婚への道」は「挙式当日−教会編」をお送りします。


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