第14章 : 挙式当日−教会編


当日。
ちょっぴりお寝坊してのっけから遅刻。
大慌てで美容室へ飛び込むと

「じゃ、脱いでください!」

と焦りまくった美容師さんが指示を飛ばす。
あっと言う間に着替えを済ませ、ひなのメイクに取り掛かる。
顔を塗られながら髪をセットしてもらう。
口紅を塗ってる間にも髪を引っ張られる。
やめて〜!口紅が曲がるぅ〜!
ひなの心の絶叫をよそに、メイクも完了。
ワシらは白一色の、まばゆいばかりの婚礼衣装に身を包んでいた。

そして、ぼんやりする間もなく写真撮り。
ひなはドレスの裾を踏まないように気をつけながら「遠山の金さん」のごとく
すぽーん!すぽーん!と歩いていた。

「はい!お嫁さんはもっと斜め向いてくださーい。あ、お婿さんはもっと胸をはってくださーい!」

どうやら時間に追われているらしい。
写真屋さんは立て続けにワシらにポーズの注文を出す。

「お嫁さん、そのままで顔だけこちらに向いてくださーい!」
ひな、エクソシスト状態に限りなく近くなる。

「お婿さん、もっとお尻を後ろに突き出してくださーい!」
あつし、トイレを我慢している幼稚園児状態に限りなく近くなる。

「はーい!笑ってくださーい!」
それはちょっと・・・、無理があるだろう。
無理な体勢で笑顔を保つのもかなり辛い。
きっと出来上がった写真は、ポーズはそれなりでも表情は鬼気迫るものがあるに違いない。

ようやく写真撮りも済み、休む間もなく挙式のリハーサルが決行された。
場所はBELLA-VITAの3階にあるミモザ教会。
入り口で牧師さん達と簡単に挨拶を済ませ、これまたもの凄いスピードでリハーサル開始。

「こちらで一礼して花嫁さんの手を取って下さい」
「私がこう言いましたら、後ろを向いて一礼して下さい」
「お祈りの時は、目を閉じて、アーメンと言ったら、また前を向いてください」

覚えきれない程の細かな指示を、これでもかッとばかりに繰り出してくる教会の説明係のお姉さん達と牧師さん。
そして、衝撃の発言が飛び出した。

「You may kiss to the bride と言いますので、そしたら、キスしてください」
「あ、写真の関係があるので、花嫁さんの右頬にしてくださいネ」
「え?何で?」
「右頬にしてもらうと、カメラマンの方があちら(花婿の後ろで牧師の隣)から撮るので、花嫁さんの表情をとらえやすくなるんですよ」

なるほど…。
本当はちゃんとチュウしたかったのに、かなり残念だ。
こうして、リハーサルはわずか10分足らずで終了した。


とりあえず式が終わるまでは、写真室で待機する事になった。
あつし、ひな、ひな父の3人は、ボンヤリと椅子に腰掛けてその時を待っていた。
すると、ワシらの担当のSさんがかけ足で写真室に飛び込んできて、こう言った。

「挙式がもう始まりますので、用意の方をお願いします!」

Sさんの後について、あつし出陣。

「もう少ししたらワシらの番だね」

のんびりとひな父と話していると、またSさんが飛び込んできた。

「もうお式が始まってますので!」
「え?もう?」

慌てて写真室を飛び出すひなとひな父。

「お嫁さんはこちらへ!」

ドアの脇に立っていた係りの人がひなをひな父の左手側に誘導した。
そしてひなが定位置に落ち着いた瞬間。

「じゃ、開けます!」

教会のドア、オープン。
教会の中にいるみんなが一斉にこっちを向く。

ヤバイ!腕組んでないよ!
ドレスの裾も持ってないよ!


ひな父は、あまりにも素早い進行について来れていなかった。
慌てて父の腕を取って組み、
「せぇ〜のっ」
とか小さい掛け声をかけて、ひなとひな父は、リハーサル通りに真っ白な大理石の敷き詰められたバージンロードを歩き始める。

…ダメだ。
さっきの素早いドア・オープンが面白すぎてたまらない。
どうせベールで顔なんか見えやしないと、声を殺して笑いまくるひな。
ふと見ると、ひな父も笑いをこらえている。

そしてひな父の手からあつしの手にひなが渡された。
牧師さんの前に進むひなとあつし。
賛美歌を歌って、お祈りが始まった。
あぁ、本当に結婚式が始まったんだな〜…と、ほんのりしながらあつしを見ると、
お祈りが終わったのにあつし、目を閉じっぱなし。
一生懸命に『目を開けろ』とサインを送るがさっぱり気付きやしない。

かなり緊張しているようだった。
「はい、誓います」
と、あつしの声も、かなりかすれてしまっている。

「それでは、指輪の交換を」

牧師さんがワシらの前に指輪を出す。
ひなは手袋を取って、指輪をしてもらう。
次にひなが指輪を持ってあつしの指に…。
アレ?
中指に、いつもしている指輪が!
外しておけよ〜、と思いつつ、指輪の交換が終了。
そしていよいよ誓いのキス。
向かい合って、ベールを上げて…


どっちだったっけ?
右か?左か?
バスケのディフェンスのように左右に動いて悩む、ひなの顔とあつしの顔。
かろうじてリハーサルの内容を思い出して右頬にキス。

「それでは、結婚証明書にサインを」

牧師さんの右側に、結婚証明書と羽根ペンが置いてある。
ひながそっちへ移動しようとした瞬間。
ぐい。
後ろに引っ張られた。
イヤ、あつしが裾を踏んでいた。

そんなこんなで結婚式は牧師さんの結婚宣言をもって終了。
うれしくて、恥ずかしくて、帰りのバージンロードをもの凄い速さで退場。

次のフラワーシャワーとブーケ・トスの用意のために、ドアの脇に待機。
しかしここで、思わぬ問題が発生していた。
ひなの着ているウェディング・ドレスは長袖で、腕が90度以上は上がらない。
この状態でブーケなんか投げられるのか?
「手首にスナップをきかせて投げてくださいネ」
Sさんのアドバイスを肝に銘じて、ドアの脇でひなはシャドー・トスを始めた。


参列者が教会の前の中庭に集合した。
教会の鐘が鳴り響く中、にこやかに笑いながらあつしとひなはフラワーシャワーを浴びる。
そしていよいよ、ブーケ・トス。

「これさぁ、あんまり腕が上がらないから遠くに飛ばないよ。もっと近いほうがイイよ」

後ろに控えている女友達数人にアドバイスするひな。
そして、手首にスナップをきかせて・・・

投げたーッ!

ビューンッ!!

ほぼ直線を描きながら、女友達の頭上を通過していくブーケ。
そして、一番後ろでボンヤリと待機している既婚の女友達が見事にキャッチ!

「お前が取るなーッ!」(全員激怒)
「だって、お友達の方は集まってくださいって言ってたからぁッ!」(号泣)

お友達でも、既婚者はブーケ争奪戦に参戦しちゃイカンだろ・・・。
ブーケはその友人の手から、ゆかりこへと手渡された。





感動する間もなくあっと言う間に挙式を済ませてしまったひなとあつし。
そして怒涛の披露宴が幕を開ける!!
次回「結婚への道」は「挙式当日−披露宴編」をお送りします。


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